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スポーツと歯並び 噛み合わせ


根津浩プロフィール
根津矯正歯科クリニック院長。臨床医として多忙な毎日を送る傍ら、学会講演、論文執筆、書籍出版を行う。おもな著書に「歯科矯正学・バイオプログレッシブ診断学」「歯科矯正学・バイオプログレッシブの臨床」など。一般書として「カッパサイエンス・歯並びが、きれいになる本」がある。

スポーツと歯並び 噛み合わせ

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矯正治療を始めるタイミングとなおすのにかかる時間

矯正治療の開始時期は、歯並びの状態だけではきめられません。骨格の問題や、習癖の有無、気道の状態、年齢、性別、成長の有無、歯と歯周組織および全身の健康状態、本人とその家族のやる気と理解などによって異なりますので、一概に「早ければ早いほどよい」「永久歯になってからでよい」などと、片づけることはできません。

治療の方法は、始める時期によって、早期治療と永久歯治療の二つに分けることができます。
治療に必要な期間は、永久歯治療で平均二、三年、通院は月一回ほどです。一方、乳歯列や混合歯列の時期(六歳から十歳くらい)にはじめる早期治療では、放っておけない悪い状況があったら、なおしておいて、永久歯がそろいやすい環境をつくったり、永久歯の治療を始める準備をととのえるために、第一期治療を一、二年行い、その後、永久歯交換後に第二期治療を1年半から二年くらい行うというのがふつうです。
骨格に問題のある反対咬合(こうごう)は、もっとも時間のかかるケースといえます。たとえば、早期治療で前歯をなおしても、思春期成長にはいってから。下顎が伸びてくることがよくあります。その場合、成長が終わってから最後の仕上げをするのですが、初診から完了まで、何もせずに定期観察を行う期間を含むと、十年以上通院することも珍しいことではありません。もっとも、口の中にブレースがはいっていない大半の時期には、数ヶ月に一回の通院ですので、ものすごくたいへんというわけではありません。

「どうせ後からブレースを付けるなら、早期治療しなくてもよいではありませんか」という質問を受けることがありますが、それは正しいとはいえません。まず、なおせる範囲でなおしておいて、成長のピークを待つようにしなければいけません。放っておけば、環境が症状を悪化させて、骨格の変形が進み、歯並びだけでなく、顔だちの改善はだんだん難しくなってしまうことがあるからです。また、永久歯治療での抜歯を回避するためにも必要な場合があります。もっとも、診断の結果、最初から抜歯治療が必要とされる場合は、永久歯交換を待って開始するのがよいタイミングといえるでしょう。いずれにしろ、子供の場合は、全部の永久歯が生え変わる前の、7歳から10歳くらいには専門的な診断を受けるのがよいと思います。

しかし、成人だからといって、けっしてあきらめる必要はありません。日本でも、親子そろって治療を受けるとか、いろいろな職業の社会人、大学生の患者さんがふえ、都会の診療室では、恐らく三割くらいを占めるようになっていると考えられます。また、近年の歯周治療、歯の保存治療、インプラントを含む歯の補綴治療などの発達によって、矯正歯科と他科との協同治療を行えば、ほとんどの場合、何歳になっても、成人矯正は可能です。むしろ、高齢化社会を迎えて、自分たちが子供のころには治療の恩恵を受けられなかった中高年の患者さんこそ、これからの人生のQOLを高め、より美しく健康であるために、大いに矯正治療にチャレンジしてもらいたいものです。

次回は治療に伴うリスクや限界についての話です。
投稿者 根津浩 17:19 | コメント(0)| トラックバック(0)

歯並びの診断

矯正歯科を訪れても、即治療ということにはなりません。治療を始めるまでには、いくつもの段階を踏む必要があるのです。

まず、初診相談では、患者さんの主訴を聞くことから、過去の病歴や現在の健康状態をチェックします。とくに鼻づまりなどの耳鼻科的な診査が重要です。また、歯並びに影響する悪習癖、家族歴も参考にします。顎関節の診査、問診も行います。

図2-1

つぎに、診断のために必要な資料をそろえることが必要です。口と顔の写真、歯型、歯や顎関節のX線写真、頭部のX線規格写真(セファログラム)などの基本データは最低限必要なものです。また、最近では、頭頚部用に特化した低被爆量コーンビームCTを活用する診療室もあり、より安全で正確な矯正診断が行えるようになりました。

図2-3
図2-4
図2-5
図2-6
図2-7

これらをもとに分析を行い、診断と治療計画がきまると、つぎに患者さんとのコンサルテーション(診断と相談)を行います。
ここでは、歯並び、骨格、口もとのバランスなどの現状を説明したのち、治療開始時期、治療の方針、治療の期間、通院頻度、歯を抜くか抜かないか、治療装置の種類、治療中の注意と協力の内容、治療後の予測される咬合と口元、治療後の管理(保定管理)、第三大臼歯(親知らず)の将来の処置、治療に伴う痛みなどのリスク、治療費と支払い方法などを、細かく説明します。通常、それらのメリットとリスクの概略を含め、治療計画書として、書類に残します。
装置をつけたときの痛み、不快感や、歯ブラシのたいせつさについても、説明を受け、気になることや聞いておきたいことがあれば、質問するとよいでしょう。要は、最初のコミュニケーションがひじょうに重要だということです。なんといっても、その後何年も、同じレールに乗って進まなければならないのですから。

気道の問題があれば耳鼻科へ、埋伏歯、過剰歯などがあれば口腔外科へ、むし歯、歯周病があれば、矯正治療前に他の歯科医院での治療が必要となることもあります。舌癖などの悪習癖があれば、その訓練も開始することになります。
コンサルテーションが終わると、開始時期がきまります。受験、就職、留学、結婚、転居など、たいせつな予定は早めに申し出ておいて、治療計画のときに考慮してもらうべきでしょう。

どこを、どこまでなおすのか
どこを、どこまでなおすかという治療目標の設定のしかたには、いろいろな方法がありますが、どんな場合でも、よい歯並びと噛み合わせ、美しい口もとと、安定した健康な口腔内を作るという最終的な目的に変わりは、ありません。セファログラムは、骨格だけでなく、歯の位置や、顔面のバランスを調べ、どこまで動かすべきか、歯を抜くか、抜かないかなどを、歯型や写真、アデノイド、桃腺などの耳鼻科的疾患を参考にして決定するのに必要です。
また、半世紀以上にわたるセファログラムの情報の蓄積から、ヒトの顔がどのように成長していくかについて、かなり解明されてきています。治療ゴールを、成長の予測も含めて作図し、「目で見る治療目標(VTP-Visual Treatment Planning)」を作るという方法があります。これは、成長、歯の移動、骨格の変化、横顔のラインからつくられる予測図で、予知性のある治療を期待する患者さんには必要なものといってよいでしょう。

図3-2
図3-1
図3-3

次回は、治療を始めるタイミングと、それにかかる時間についての話です。
投稿者 根津浩 17:11 | コメント(0)| トラックバック(0)

歯科矯正治療とは

歯科矯正治療とは
歯並びの矯正治療というと、とかく、その審美的な側面ばかりが強調されがちですが、最近では、日本でも、歯並びを健康の一部として考える人がふえてきました。
よい歯並びは、見た目にきれいに並んでいるだけでなく、正しい噛み合わせとスムーズなあごの動き、口もとのバランスによって支えられています。つまり、形の美しさは、咀嚼、発音、呼吸、体幹バランスなどの機能と表裏一体の関係にあるのです。その意味で、歯科矯正治療は健康医学、スポーツ医学のたいせつな一領域を担うものであるといえます。
日本人と歯並び
国民の知的、経済的、文化的レベルでは諸外国に引けをとらないのに、日本人の歯や歯並びに対する無関心はどこからきているのでしょうか。恐らく、単一の文化、言語を有する日本民族は、八重歯などのアンバランスを可愛いとするように、美しさを乱すポイントにユーモアのセンスを交える独特の価値観があるように思います。

しかし、初めて来日したアメリカやヨーロッパの人たちが、通勤電車に乗って、まず、驚くことが、瀟洒な服に身を包み、ブランド品のバッグを持つ多くの日本人が自分の歯や歯並びの悪さに無頓着だという事実であり、このことは一種のカルチャーショックであることをよく耳にします。
日本人には、乱ぐい歯や出っ歯、受け口など、歯並びや口もとのアンバランスで損をしている人が多いのは、残念なことです。口もとの印象は、顔全体のイメージに直結していることを知ってください。正面だけではありません、歯並びや口もとの欠点は、横顔のラインに、正直に出てしまうことが多いのです。歯並びと横顔、自信ありますか。
矯正治療にはどんな装置を使うのか
矯正治療には、一般的に歯に直接接着するブレースと呼ばれる装置をはじめ、症状に応じてさまざまな器具を装着しますが、それらの中には、取り外し可能なものから、口の中だけでなく、あごの骨格を矯正するために、口の外につけるものもあります。

図6-3

「矯正はしたいけど、口をあけたとき、装置が見えるのが恥ずかしい」。だれでもこう思うに違いありません。しかし、一生、今の悪い歯並びのままであきらめるのかどうか、よく考えてみましょう。装置がはいるのは人生の一時期にすぎません。すばらしい結果を考えれば、がまんをしてみる気になるはずです。
スポーツや楽器は大丈夫?
日常の生活では、とくにしてはいけないというものはありません。スポーツについても、ふつうにやってください。
よく心配されるのは、テニス、サッカーやバスケットボールなどのボールゲームです。矯正装置を付けていてボールや人とぶつかったりすると、ケガをするのではないかと質問されることがあります。しかし、装置をしているために、ケガをするというようなことはありません。むしろ、激しくぶつかっても、装置が添え木の役目をして、歯が抜けずにすんだという人もあるくらいですから、安心してください。
ただし、柔道の寝技やラグビーなど、どうしても口もとを強くぶつけやすいコンタクト・スポーツでは、衝突によって装置がこわれる心配があります。したがって、激しいスポーツをする人の場合は、とくべつに、やわらかいマウスピース(スポーツガード)をつくることもあります。
また、最近はブラスバンドなど、楽器を趣味とする人もふえてきました。吹奏楽器は、装置を付けると、多少音がでにくくなることがあります。とくに、トランペットなどの高音楽器では、慣れるまでに時間がかかります。しかし、ほとんどの場合、練習するうちに慣れてくると思います。なお、歯並びの状態によっては、治療の妨げになる楽器もありますので、事前によく矯正歯科の先生と相談してください。

次回は治療を始める前の診断についての話です。

投稿者 根津浩 12:10 | コメント(3)| トラックバック(0)

Vol.1「スポーツ選手と歯科矯正」

1988年のソウル・オリンピックで、カール・ルイスが100メートルを9秒92で走り、優勝しました。このとき、彼が歯に金属のピカピカ光る矯正装置をつけて走っていたことをご存知の方がどれだけいるでしょうか。ブレース(アメリカでは、歯につける装置をこう呼びます)を、堂々とうれしそうに見せているルイスの笑顔は当時大きな話題となりました。
オリンピック直前に当時27歳の彼が矯正を受けた背景には、瞬発力のパワーアップと、体幹バランスの向上という目的があったといわれています。

以来、陸上競技に限らず、テニスプレーヤー、サッカー、ゴルフ、野球などのきわめて広い分野において、矯正治療を受けるアスリートが目立つようになりました。プロテニスプレーヤでは、2006全豪オープン女子ダブルスでカタリーナ・スレボトニク(スロベニア)とペアーを組んでベスト4まで進出した浅越しのぶ選手は、つい最近まで矯正をしていましたし、ほかにも沢松奈生子選手、高木圭郁選手など日本選手だけでも数え上げたらきりがないくらいです。

また、プロ野球では、2005年度セリーグ首位打者、新人王ダブル受賞のヤクルトスワローズ、青木宣親選手も矯正中ですし、プロゴルファーの丸山茂樹選手も矯正をして2006年のシーズンを迎えたそうです。もっとも、最近の成人矯正では、ルイスがつけていたような金属ブラケットではなく、より目立たないセラミックブラケットを使うことが圧倒的に多いようです。

良い歯並びや噛み合わせが食生活において食べ物の消化吸収を助け、健康増進に貢献することとか、歯や歯周組織、顎関節を含む顔面全体の健康維持に大きな役割を持つことは、よく知られていることだと思います。それだけではなく、良い歯並び、噛み合わせは、スポーツ医学あるいはスポーツ歯学からも、身体バランスを保ち、全身のパワーが最大限発揮できると考えられています。
投稿者 根津浩 15:00 | コメント(1)| トラックバック(0)
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